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2019年3月20日

アイスリンク仙台から世界へ。阿部奈々美コーチインタビュー

日本のフィギュアスケート発祥の地、仙台。異国人によって伝えられたのは19世紀の終わり頃といわれています。
100年を超える歴史の中でスケートは市民に愛され、その文化を醸成し、世界に誇るトップスケーター達がこの街から世界へと羽ばたきました。その陰には、原石を磨き上げた指導者たちの存在があります。
荒川静香さんらスター選手を支えてきた阿部奈々美さんは、仙台出身。地元のフィギュアスケート発展への思いを聞きました。

 

<世界のフィギュア、日本のフィギュア>

——はじめに、世界のフィギュアスケートの現状について教えてください。

技術レベルの発展がめざましいですね。特にジュニア世代(中高生)の成長が著しく、中でもロシアの女子が4回転を実戦で跳びはじめ注目を集めています。もともと優れている芸術性に加え、急速に技術力をアップさせ力をつけてきました。

——世界の中で日本はどのような位置につけていますか。

オリンピックや世界選手権の実績からも明らかなように、日本は世界のトップレベルです。選手の努力に加え、指導者の先生方が非常に研究熱心に取り組んでおられる成果が表れているのでしょう。また競技の技術だけでなく、食事やオフアイスのトレーニング、身体ケア等、多面的な取り組みも効果を挙げていると思います。

——情感豊かな演技は、観ていて引き込まれます。

近年、日本人選手のエンターテイメント性や芸術性はぐっとレベルが上がっています。昔は、日本人選手は技術面の能力は高いが芸術的表現は苦手といわれることもありましたが、今はそうではありません。自分らしく、のびのびと感性を発揮していて頼もしい。数年前から歌入りの音楽の使用が認められ自由度が上がったことも、表現力の進化を後押ししましたね。

 

 

<仙台フィギュア事情の変遷と、オリンピック選手の誕生>

——仙台のフィギュア事情はどのように変遷してきたのでしょうか。

40年ほど前は今より多くのリンクがありました。県内で5、6ヵ所はあったと思います。私の実家の近くにもあり、先に習い始めた兄や姉についていくうちにいつのまにかスケート靴を履いていました。母からは「3歳前には氷の上に立っていて驚いた」と聞かされました(笑)。
小学校時代はフィギュアを習っている友達も多かったですね。1988年、泉区にできたリンクがアイスリンク仙台の前身。荒川静香さんも羽生結弦選手もここから巣立っていきました。

——市民にとってフィギュアは身近だったのですね。さすがは発祥の地。

ところがその後、リンクの閉鎖が相次ぎます。現在のアイスリンク仙台も数年にわたって閉鎖していましたが、荒川さんのトリノ五輪での金メダル獲得をきっかけとして復活。これは仙台のスケートシーンに大きな希望を与えました。
それから次々にスター選手が誕生して全国的にフィギュア熱が高まり、アイスリンク仙台でも教室数を増やした記憶があります。一般のお客様も激増し、クラブチームの練習は早朝や夜遅くに貸し切りで行うようになりました。その頃の熱狂的な盛り上がりは落ち着いていますが、現在もフィギュア人気は高いと思います。

——世界中の憧れとなった荒川さん。阿部さんは同じクラブのご出身で、後にコーチや振り付けも担当されました。どんな選手でしたか。

小学校低学年の頃から知っていますが、おてんばでした(笑)! 身体能力が高く、走るのも速いし何をしても器用。でも、見えないところで努力を重ねていたのが印象的です。
トリノで金メダルを取る2年前、ドイツで開かれた世界選手権で優勝。私はその翌年アメリカ合宿に帯同しましたが、このとき彼女は、まだトリノへのチャレンジを決めかねていたようです。私はコーチの立場というよりも、フィギュアを愛する一人として、ぜひ挑戦してほしいと伝えたことを覚えています。身近だった選手が羽ばたく姿は本当に誇らしく感じました。
引退してからの荒川さんの、フィギュアスケート界への貢献は計り知れません。金メダリストだからできること、伝えられることを、真心を込めて行動しているし、人として尊敬しています。

 

 

<「聖地・仙台」でスケートをするということ>

——全国的にみたフィギュアの「勢力図」のようなものはありますか。

名古屋と大阪がもっとも盛んですね。名古屋は中京大、大阪は関西大がそれぞれリンクを所有しています。付属高校もあり、入学すればリンクを使えるため選手が集まりやすい。民営、公営のリンクも多く、すそ野は広いといえます。

——名古屋や大阪は「フィギュア王国」なのですね。

一方で仙台は、驚くべきことに、1つの民間リンクから2人ものオリンピック金メダリストが生まれています。日本中を探してもそんな街は他にない。私たちの誇りです。

——仙台はまさに「聖地」! アイスリンク仙台は「伝説のリンク」ですね。

そう。荒川さんや羽生選手が育った同じリンクで滑る感動や、「いつか自分も」という強いモチベーションは、仙台で練習する選手だけが抱くことのできる宝物です。
アイスリンク仙台では、4つのクラブが活動しています。大学を中心に展開する名古屋・大阪と違い、幼少時代から一貫して地元のクラブでトレーニングできるという強みがありますね。また、選手育成に大変理解が深く、惜しみなく協力してくれるリンクですので、選手にとっては恵まれた環境です。
——阿部さんは長年にわたり多くの選手を育成してこられましたが、指導の上で大切に考えておられることは。

一番は、「スケートを嫌いにさせない」ということ。好きで始めたスケートをずっと好きでいてほしい。何らかの事情で辞めるときは来るとしても、嫌になって辞めるということは絶対にないように、と常に考えています。もちろん上達のために厳しく接することはありますが、それは人と人として信頼関係があってこそです。

——フィギュアの魅力とは、ズバリ何でしょうか。

いろいろありますが…一番は「観る人を感動させられる」競技だということですね。決められた時間とスペースでいかに世界観を創りあげるか、そして美しく難易度の高い技を成功させられるか、その挑戦によって観客を魅了するのです。
指導する私も、観ながら泣いてしまうんですよ(笑)。特に小さい子のデビュー戦、1分間を一人で滑り切った姿は感涙ものです。

 

<スケートをもっと身近に>

——自分もフィギュアをやってみたい、と思ったらどうすればいいでしょうか。

まず、リンクへ足を運んでください。「滑ってみる」から一歩進むには、ぜひ体験教室へ。

——何歳からできますか。

3歳前から始める人もいますし、小学校に上がってからでも十分間に合います。

——小さいうちに始めるメリットはありますか。

年齢が低いほど、恐怖心なく氷に乗れる子が多いようです。「氷の上は危ない」「滑るかもしれないから怖い」といった先入観を持たずに、遊び感覚でスケートに親しめます。ちょっと滑るけど歩いてみよう、転んでもなんだか楽しい。座り込んで氷を触るのも面白い。そうなると、徐々にスピードを出したり、跳んだり回ったりが楽しくなり、自然に技を吸収していく子が多いです。
もちろん小学生からでも上達しますし、選手としても十分に活躍できます。「努力に勝る才能はない」というのは真実で、持って生まれた身体能力を努力は越えられます。

——大人になって始める人もいますか

いますよ! 未経験でもクルクル回れるし、跳べます。大会にも出場できます。大人の教室生は最近増えていますよ。

——えっ、それはびっくり! 大人は体が硬くなってできないと思い込んでいました。

全然、大丈夫。好きで観ているうちに自分で滑ってみたくなり、始めると面白さに夢中になって、大会に出場したという方もいます。リンクへ来て同じ趣味の人と出会い、おしゃべりするのが生きがい!という方も。
個人レッスン生の中には、80代の女性もいらっしゃいます。ロングドレスを着てアイスダンスの大会に出場するし、毎年東京でマスターズの大会にも出ています。いつも生き生きしておられて、「あんなふうに年を重ねたい」と憧れますね。

——80代の選手なんて、かっこいい。体力づくりのために気軽に始めることもできるのですね。

スケートは全身運動です。楽しく滑っているうちに意外なほど体を動かしている。ほら、スケートリンクってとても寒いのに気がついたら汗をかいているでしょ? 教室に入らなくても、自由に自分のペースで滑っているだけで健康増進。生涯スポーツとしてもお薦めです。

 

<「ちょっとスケートでも」と気軽に>

——身近で大会を観戦できる機会はありますか

昨年末に、初開催した「仙台市長杯フィギュアスケート競技会」は、多くの観客にお越しいただけました。楽しんで観ていただいたことはもちろん、出場者が多くの応援や拍手を受けていつも以上に生き生きと演技できたことに、私も感激しました。こんなふうに気軽に観戦できる大会を増やしたいですね。
アイスリンク仙台では、小学生から中高生の大会、世代を問わない「宮城県スケート連盟会長杯」など、各種大会を開催しているのでぜひ足を運んでみてください。

——未来のスターを目撃できるかもしれませんね!

本当にそう。現在も将来有望な選手がこのリンクで頑張っていますよ。
——仙台のフィギュアスケートの未来の展望を。

フィギュアをブームではなく、市民の心と生活に根付いた文化に育てたい。公園に遊びに行くような気分でふらっとリンクに行けるくらい、身近なものになるといいなと。すそ野が広がり、愛好者や競技人口が増えれば、スケートでもっと人と人がつながります。
「フィギュアといえば仙台」をスタンダードに。ハートの熱いアイスリンク仙台なら、きっと実現できますよ。

——夢が広がりますね、楽しみです。ありがとうございました。